コイバ国立公園(2)

この公園に私は、パナマ人とアメリカ人の友人2名と、実際に探検に行きました。その様子を以下の紀行文に記しています。

 

       コイバ島探検記

   コイバ国立公園は2005年7月に世界自然遺産に指定された。前からそこに行ってみたいと思っていたが、ようやくその機会が訪れた。ANAM(パナマ環境省)の手配で、船と宿泊、ガイドの手はずが整った。パナマ市から車でアメリカンハイウェーをコスタリカの方へ向かって4時間、サンチャゴ市に着き、そこからさらに40分、太平洋側の港、リンコン・ラルゴに着いた。

f:id:shuasai1207:20190904152514j:plainコイバ島

 その港から快速船で、快晴の中を飛ばし、幸い波はあまり高くなく、約2時間半でコイバ島の入り口、ANAMのステーションに着く。すべてジャングルで覆われた島の中にステーションの場所だけ木がなく芝生が植えられている。きれいな色の宿舎が並び整っている様子は意外である。そこの職員の出迎えを受け、コイバ国立公園の説明を受ける。この公園は面積2700平方km、80%が海洋、20%が陸地で、島の面積は東太平洋で2番目、周りを取り囲むサンゴ礁の大きさも東太平洋で2番目で700種類のサンゴがあるという。ここの特徴は他の公園では見られない3つのエコシステムが同時にあり、それが熱帯雨林サンゴ礁マングローブである。また、何といってもこの内陸の特徴は、パナマ本土ではほとんど見られないコンゴウインコ、英名スカーレット・マカウが見られるということである。また、世界でもここしかいない鳥や動物が数種いる。パナマでは5種のコンゴウインコがいるが、今、これらはダリエンの奥に行かなければ見ることができない。その中で一番きれいな鳥がスカーレット・マカウで世界でもほとんどいなく、数が少ない。今回見られるかとガイドに聞くと、何とも言えないが、朝早くだったら見られるという。

 説明を受けながら、芝生の遠くを見ると、長さ60~70cmぐらいの背中いったいに大きなとげのある動物が所々動き回っている。よく見ると、こげ茶色の巨大化したグリーンイグアナである。近くには、ウサギとネズミを掛け合わせたようなオオテンジクネズミが現れ、これもカピバラかと思われるほど大きく、木の上から黒い体に顔だけ白いカプチンモンキーが下りて来たり、小さいイタチのようなコモン・オポッサムがさっと木の根の穴に入り込む。岸から10mも離れていない海面を2mぐらいのアメリカワニが横切っている。それと対照的に、宿舎の周りの芝生の上に小さな鳥たちがいる。スズメより小さい青光りした黒い鳥や、同じように上半身が黒いが、眉とのどがオレンジ色で下部がオリーブ色の鳥、背が茶褐色で下部が白で、茶色い点々の筋が走っているツグミ、小さな数種のタイランチョウが群れを成して餌をついばんでいる。ヤシの木の上に頭と背が黒く、白い眉があって、下部が黄色のミツドリ、浜辺には小さなチドリやシギが尾を振って動き回っている。大型な鳥では、浜辺に黒い斑点のトラフサギが立っており、木の上にはハイイロノスリ、体が真っ黒なマングローブハイタカがじっと止まってこちらを見ている。この島しか見られないゲラも木にへばりつき、パナマ市周辺ではあまり見かけない鳥のため、長いこと見とれてしまう。

f:id:shuasai1207:20190904152707j:plainANAMステーション

 宿舎は10棟ぐらい並び、各部屋に6つのベッドがある。台所、食道、事務所、大きなベランダと準備されているが、わずかしか使っていないので、すべての備品は整っていない。スポーツフィッシングやサーフィングの人たちが途中で立ち寄り、ガスボンベを持ってきて料理している。ただ、水は山の上からパイプで清水を引いてきているので、ふんだんに使え、電気も自家発電機で起こし、暗くなると点き、夜11時まで使える。ステーションは島の先端にあり、ビーチやサンゴ礁に近いが、奥地に行くトレイルがない。他の場所への移動はすべて船でやる。昼近くに着いたので、昼食を食べて探検しようとすると、ビーチ、サンゴ礁は近くてもスノーケリングの器具を持っていない。ましてやダイビングはやったこともなく、器具もない。原生林やマングローブ、温泉は島の裏にあるという。しかし、島といっても、面積は佐渡ヶ島より一回り小さいほどであるので、おいそれと裏側に行くこともできないし、船長はガソリンがかかるといってそちらの方に行ってくれない。仕方がないので、この近くの全長2kmぐらいのモノ・トレイルに行くことにした。この地域は以前刑務所があった近くで、囚人たちが原生林を切って畑にしてプラタナ、ユカ、豆、タバコ、コメなどを栽培し、収穫していた。それが廃止され、自然のままに放置して30~40年になるという。したがって、ここはジャングルになっているが、すべて二次林で木の幹は細く、ツルがやたらと多く、大木はない。あいにく、昼過ぎということで、鳥も動物も暑くて木の上から下りてこず、あまり見られないままにトレイルを歩き終わった。明日の朝早く、コンゴウインコが見れることを期待してステーションに戻った。

f:id:shuasai1207:20190904152904j:plainジャングルの中のモノ・トレイル

 早朝、幸い雨はなく、快晴、船でコンゴウインコが来るという海岸線に向かう。雨期は見るのが難しいという船長の言葉もあって、あまり見れるという確信もないまま、海岸線の熱帯雨林の生い茂ったラインを眺めていた。朝見る島は緑がはっきりと浮かび上がってくる。ニスペロの大木、ヤシの木が入り乱れ、ジャングルの深さが迫ってくる。20分ぐらい行った頃、ガイドが実がなっている木の上を指さしながら、「いた!」声を上げる。何がいたのかと尋ねると、「コンゴウインコだ!」という。「あそこだ!」と指さすが、何も見えない。じっと指差されたところを凝視すると、何やら木の頂上の緑の葉の上に、小さな丸く赤いものが見える。双眼鏡で確かめると、コンゴウインコの頭の形をしている。なにぶんにも200m近く離れているので、はっきりした目、顔かたちの輪郭がつかめない。赤、黄色、黒のコントラストである。4羽いるという。「もう少し近づけないか」と船長にいうと、エンジンを始動させ、バックしながら近づく。すると、赤い丸い点が見えなくなった。逃げたと思ったが、ガイドが「ほかの木に移った」といった。もうこれ以上近づけない。これ以上近づいたら逃げるという。それでも「どうしても見たい」というと、鳥から遠く離れたところに船を上陸させ、そこから砂浜伝いに歩いて行こうということになった。船から裸足で砂浜に上陸、靴をはこうとすると、ガイドが「裸足でついてこい」という。急いで彼の後を追う。コンゴウインコのいたような辺りまで近づき、上を見ようとした瞬間、「ぐぁー!」とすさまじい声が湧きあがったと思うと、すぐ目の上を3羽のコンゴウインコがばたばたと飛び立った。3羽が一列に並び、十字の形で頭の上を通り過ぎようとする。急いで双眼鏡でのぞく。鮮やかな赤と青と黄色のコントラストで、羽を一直線に広げ、長い尾を伸ばして飛ぶ姿は壮観そのものである。1メートルは優にある。鮮やかな美しさに驚き、立ち止まる。が、飛ぶ速度が速い。顔や姿をはっきり印象付けたいと思い、双眼鏡を移動方向に動かす。残念なるかな、すぐ木の背後に隠れ、再び現れた時には双眼鏡ではっきり見れる位置にはいない。数秒間というあっという間であったが、鮮やかな色の印象は残った。

f:id:shuasai1207:20190904153031j:plainコンゴウインコが見えた森

 後で、見ることができたという喜びが沸き起こってきた。ガイドが言うには、ここで見れたことは運が良いという。雨期はアメンダラの実が実らないので鳥はあまり下に下りてこない。乾期になるとアメンダラの木に群がり、いっぺんに30羽も見れた日があったという。島の奥地にアメンダラの木が生い茂っていて、乾期にそこに行けば必ずといってよいほど見れるとのことである。今はトレイルができていないので、海岸線からしか見ることができない。しかし、この島に来れば、コンゴウインコが見られるという確信ができ、うれしかった。コスタリカでは、現在、このスカーレット・マカウは30つがいしか発見されてなく、絶滅に近いという。この島は1919年に刑務所ができ、それ以来、囚人とANAMの管理人以外住んでなく、手付かずの島となってきた。2004年にはその刑務所もなくなり、今の住人は管理人だけである。幸いにも、それが功を奏して自然が守られていることを思うと、ここは自然の宝物としか言いようがない。ただ、この島は100年近く放置されているので、設備といってもANAMの宿舎ぐらいで、奥地に入るトレイルも造られていない。しかし、世界遺産に指定されてから欧米の自然愛好家が来だしている。ANAMもこの地域の価値を認識したのか、ここの宣伝に乗り出し、市内で写真展示会を開いている。すぐに宿舎の設備を整え、奥地に入るトレイルやレストランも造るという。おまけに、この奥地にはパナマで唯一の暑い温泉も出る。

f:id:shuasai1207:20190904153216j:plainANAM所長(左から2人目)と友人

 今のところ、コイバ国立公園の特徴は何といっても海である。ステーションの桟橋から下をのぞいただけで、60cmぐらいの青や黄色の魚、赤、青、黄色の小さな熱帯魚、50cmぐらいの細い透明の魚が群れをなしている。このステーションの近くには世界でベストの一つに数えられるダイビング、スノーケリングの場所がある。さらに、対岸の本土にはサーフィングで世界的有名なサンタ・カタリーナもある。日本には、近くに東南アジアの海があるが、この人が踏み込まない中米の奥地は、人に何が出るかわからないという好奇心をそそらせ、秘境好きな人を満足させる深さを持っている。