チャグレス国立公園(3)

 カリブ海側のパナマ運河入り口を起点に東と西に道路が分かれます。東側にチャグレス国立公園が広がり、入るとすぐシェラ・ジョローナロッジがあります。三つの国立公園の中心点で、カリブ海側の鳥や動植物が集中的に観察できます。特徴的には、額が紫色のハチドリなどを中心に、ハチドリが多く、大型のインコやミツドリ類やルリカザリドリなどが集まり、賑やかです。道路を東へ行くと、所々の木の枝に大きなひょうたんのような籠があちこちにぶら下がっています。長さが1メートリ以上もある枯草で作ったツリスドリの巣です。その辺りは鳴き声がすごく、嘴が大きく三角状にとがった、大型の鳥がその籠のような巣を出たり入ったりしています。さらに行くと、ポルトベーロ国立公園の中に、16世紀に造られた要塞が大砲をかまえて、カリブ海に突き出ているのが目に入ります。過去の海賊との戦いの跡がしのばれます。そこから20キロばかりデコボコ道を行くと、サンゴ礁マングローブが群生していて、何百メートル沖でも歩くことができる遠浅の海、スノーケリングやサーフィンでも有名なイスラ・グランデがあります。

f:id:shuasai1207:20190213171300j:plainシェラ・ジョローナ

非常に大型で、すぐ逃げないので、よく観察することができます。望遠鏡で見ると、いろいろの色が鮮やかできれいです。特徴は、頭から胴まで真っ青な色で、下部が緑、羽がオレンジと赤色です。

f:id:shuasai1207:20190213171446j:plainシェラ・ジョローナ

ミツドリの仲間で、明るい緑色の体に頭が黒色です。特徴のある色の配色なので、すぐ見分けることができます。とてもきれいな鳥です。ただ、木の高いところに止まり、フウキンチョウと一緒にいることが多いので、見つけることが難しい場合があります。

f:id:shuasai1207:20190213171613j:plainチャグレス

日の当たる、特にセクロピアの木に集団で巣を作っていることが多いので、すぐ目立ちます。ガーがーと、喉から音を出して賑やかです。ツリスドリの中では、体は40センチ以上で大きな方で、腹部は明るい栗色で、尾の羽の下部は鮮やかな黄色で飛んでいる姿は非常にきれいです。

 

以下の文は、その時、観察するためにシェラ・ジョローナロッジに宿泊して体験した紀行文です。

シェラ・ジョローナ紀行記

シェラとはスペイン語で連山、山脈,などをいう。 ジョローナとは泣くと言う意味である。 したがってシェラジョローナとは“泣き山”という意味になる。
わずか標高300M程の山だが、実際、乾期に風が吹くと山が泣いている様に聞こえると言う。カリブ海側の雨の多い、運河流域ではもっとも植物の多様性のある地域で、パナマでもここにしか見られない爬虫類、両生類も多く見られる動植物の宝庫である。この中にシェラ・ジョローナロッジがある。

お昼過ぎにシェラ・ジョローナのロッジに着く。ここはコロン市から近く、二つの国立公園に接しているジャングルの中のロッジである。やや高地なのでそこからカリブ海が一望できる。前はロッジまで行けないような大きな石の道であったが、今は道をローラーで固めて普通乗用車でもいけるようになっている。雨期の初めであったが、幸い雨がなく、すぐ、ジャングルトレイルへ向かう。雨期のせいか、緑が濃く、今まで見たトレイルと違ったように見える。トレイルの入り口には赤い口の形をしたハートリップスが一面に咲いている。

f:id:shuasai1207:20190214121523p:plainハートリップスの花

 ここは大体二次林だが、40メートルほどの巨木もあり大きな根が大蛇のようにくねっている。根元は板根(ばんこん)と言われ、空洞のようでたたくと大きな音がしてインディオ先住民族)が仲間の合図に使ったという。ここの特徴はいたるところにあるウォーキングツリー(歩く木)で、幹の根元に来ると支柱根が十数本に分かれ、これが新しい支柱根の発育と共に少しづつ動いていく。これもインディオが弓に使ったり、とげはココヤシをつぶすのに使われた。大きな砲丸のような実をみのらせているカラバサ、幹がとげで覆われたブラックパーム、ここはやや高地なのでパルマリアル(ヤシの木の一種)はそんなに大きくならない。やはり、雨期が始まったせいか、ツリー・フロッグ(木上に生息する蛙)が地面に下りていて、6~7種のカエルが見えた。茶色と黒の筋がある矢毒蛙、全体がオレンジ色のツリーフロッグなど。ひときわ目立ったのが大きな木の幹の下部に黒と緑色がまだらに混じった矢毒蛙が止まっていたことである。光線で鮮やかな黒と緑の色がまだらに浮かび上がってくる様子は壮観であった。下を見ると最初気がつかなかったが、フェル・デ・ランス(蛇)が横たわって眠っていた。起こさないように、そこをまたぐのを止めて、じっと見ていると少しづつ動き出し、去っていったが、小さいので偽のフェルデランスのようである。葉の上には、葉の色と同じ緑と白のまだらな小さなビートル(甲虫)がいる。ビートルだけでここに700種類いるという。また、熱帯特有のツルが木から木に垂れ下がっている。特に太いツルが大きな木に絡み付いているが、このツルはしまいに、この木を殺していく。まさに熱帯でなければ見られない光景である。生物の生存競争がここでありありと見られ、自然の醍醐味を心ゆくまで感じさせてくれるところである。

 f:id:shuasai1207:20190214122451p:plainウォーキングツリー

  ロッジの中やその周囲は、花やランも多く、大きくてピンク色のマウンテン・ローズ(バラ科)はとても美しい。ハチドリが群がり、見る人を飽きさせない。ロッジのすぐ近くでは、今まで見たこともない希少な鳥がかなり見られる。ガイドは若いけれどスミソニアン研究所の職員として働いたこともあり、鳥の鳴き声だけで300種見分けることが出来るという。言っただけあってすぐ鳥を見つけ、望遠鏡で見せてくれる。それは肉眼でははるかに見えない200メートル以上は離れた高い木の生い茂った葉の中にいたものである。赤い頭と体が黒いマイコドリ、頭だけが黒で体が緑のミツドリなどが手に取るように見られ、カワセミに似た大型の褐色の背と白い頬髯を持った鳥や、頭が青で、腹は緑と赤の大型インコなどが近くに寄ってくる。

ロッジの庭の中央には、甘い蜜の水を入れたランプがぶら下がっている。ここにいろいろなハチドリが群がってくる。この地域の固有種である、頭と背が紫で、喉が鮮やかな緑色のハチドリや、頭が紺色で首に白い襟巻を持っているハチドリなどをじっと観察できる。庭に面してレストランがあり、食事をしながら、庭園の花やラン、飛び交っているハチドリなどが観察でき、時折、涼しい風が吹いてきて心地よい。さらに奥にはバー、二階には資料室、図書室があって動植物の本が陳列されており、時々、スミソニアンの研究員がここを拠点にして、動植物を観察、研究している。

 ロッジの一番のポイントは、バードウォッチングツアーを主催していることである。アチオテ・エスコバルと呼ばれるロードで、ここだけで436種の鳥が生息している。パナマで一番鳥が容易く見れ、パイプラインロードに次ぎ、見られる鳥の種類の多いところである。このロッジは鳥観察が中心であるので、観察者のために、すべてのスケジュールを合わせてくれる。アチオテへはガツンロックを横切るかちどき橋を通らなければならないので、橋が閉まる前にそこを通過する。そのため朝4時でも5時でも食事のボックスを作って準備してくれる。朝が明ける同時刻に、そこに着くと、上体がオレンジで腹が緑、長い二本の尾の最後部がラケット上になっているハチクイモドキが電線で待っている。このロードは車が2台同時にすれ違えるには充分広く、電線もある舗装道路である。それがジャングルの中を走っているので、車はほとんど通らず、鳥観察には持って来いのところである。双眼鏡を電線に向けるだけで鳥をキャッチ。待っているだけで鳥が続けてやってきた。本格的なバードウォッチングが初めてなので、こんなに見れるものなのかとびっくりした。生まれて初めての経験であった。 帰ろうとしたらまた鳥がやってきて、去るのが心残りであった。f:id:shuasai1207:20190214122156p:plainガイドとバードウォッチング

 いったん車を下りると、後から後から鳥がやってくる。顔が赤く、体が白い鳥や、青い体とのどが紫色の声のきれいな鳥などを望遠鏡でとらえる。遠い枯れ木の上でもガイドは見逃さないので、待っているだけで充分である。セクロピアの木を見ると枝の二股のところに灰色の物体が見える。ガイドがいわなければ気が付かなかったが、ナマケモノで木の新芽を食べている。道路にはハナジロハナグマが歩いている。木の中腹にホエザルの夫婦が吼えないでじっとしている。ここのロードの木の種類の60%がセクロピアという葉の大きい、たくさんの実を実らせる木で、この木を鳥が好むので鳥が多いのだという。しばらくロードを進むと家々が見えてくる。ここはアチオテ村、人口700人の農牧畜を行っている部落で、家々の周りの花が美しい。ところが、部落の真ん中に沼地があり、何気なくのぞいて見ると水鳥がいろいろと集まっている。大型の、嘴が黄色で体が白いダイサギや、嘴(くちばし)が黒く、体が紫の小型のサギ、嘴が赤く、顔が白く、背や胴が褐色のカモ、ゴイサギに似た形で、首の長い、頭や胴が赤く、背が褐色のサギ、牛といつも一緒にいるアマサギなど代表的水鳥がいっぺんに見える

  帰りに、サンロレンソ国立公園の中で『CEASPA』というNGOの団体が管理しているトロゴントレイルの中に入る。ここはANAM(環境省)と、この団体が共同で新しく造ったトレイルだが、わずか600メートルのトレイルに運河流域のどの地域より植生が密集し、120種の鳥が見られるという。何百年以上経っていると見られるセイバ、エスパベ、5種のヤシの木、ゴムの木などジャングルの植物が集約されている。トロゴンの名前の通りキヌバネドリの種類が多い。この鳥のつがいが白アリの大きな巣の中に自分たちの巣を作り、アリを食べている。時間が遅かったので急いで回ったため、鳥をかなり見損なったが、その中で、全体が褐色で、目の周りだけが青い鳥や、首から上が灰色で、下部が黄色い鳥がきれいだった。アチオテ・エスコバルロードで、2時間ぐらいで50種以上の鳥が見られたが、ここはいつ来ても新しい鳥を発見でき、美しい鳥は何度見ても良いので、いつも満足感を味あわせてくれるロードである。