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ソベラニア国立公園(4)
私と妻はバロコロラド島のツアーに参加し、カノーピータワーのロッジにも宿泊しました。その時の妻の紀行文を掲載します。
「バロ コロラド島ツアー」
人造湖、ガトゥン湖の中にある一番大きな島が バロ コロラド島 という。
ここに熱帯地方の動植物の研究としては世界唯一最大のスミソニアン熱帯研究所がある。
世界から研究家、学者が集まっている。
念願かなってこの島を巡るツアーに参加できた。人気が高く、申し込んでもなかなか取れないツアーである。
この日のチームは十一名。
ニュージャージーからきた大学教授の夫婦、パナマに赴任して4年になるというカトリック神父とアメリカから遊びにきたという姪っ子、シアトルの大学生たち、パナマで日本語通訳をしている我々の友人デビットと息子のジョセフ、私たち夫婦。アメリカ人9名と日本人2名。
ガイドは、ソフィアというこの研究所のPRを担当しているというチャーミングな職員。
ガツン湖の専用船着場からボートで約1時間。
島に到着すると早速アメリカンクロコダイルの出迎えであった。
飼っているわけではない。
偶然出くわしたのだ。
体長2メートル以上はあるという大きなワニであった。
会議室のようなところでスライド講義などを受けた後、トレイルのハイキングに出発。
スミソニアン研究所
午後3時半に迎えに来るボートで帰るので正味ジャングルのハイキングは3、4時間というところだろうか。
正直、ほんとうに勉強になった。
いままで意識にもとめず、ただそこに昔からあった木が、このトレイルを1周することで木達がかわいくいとおしくさえ思えるようになったのである。
『このジャングルであんたたちもそんなに涙ぐましく、たくましく生きていたんだね。
そうかい、そうかい、知らなかったよ。』
うっそうとした昼でも暗い森。
木が成長するということは至難の業なのだ。木も智恵を働かせて自らの生存、子孫の繁栄に命をかける。
たとえばフィックスという木。
この実を森の動物、とくにさるが好んで食べる。
さるは木から木へとわたり、排便をする。
上のほうの枝からふんを落とす。
たまたま、ふんの一部は地面に落ちず、途中の木のまたなどに引っ掛かることも自然発生するわけである。
その偶然性に悲しくもフィックスは運命をたくすのである。
ふんの中に種が入っていて、引っかかった木の股から発芽する。
そうなるとフィックスの木はしめたもの。
何メートルか地面からの成長分を省略して、芽はそこから上へ上へと伸び、根っこはもともとの木に沿って下へ下へと降りて地面へもぐる。
正しい地面からの成長過程を何段階も飛び級して、いきなり高校生から始めちゃうみたいなものである。
もともとの木はたまったものではない。
ふんはひっかけられるわ、おやおやという間に途中の枝の股から別な種類の木の芽が出てくるわ、太陽は彼に独占され、根っ子でがんじがられにされ、とうとうお手上げ状態になってしまう。
最後には木の首根っこを押さえられ殺されてしまうこともある。
なんとも生存競争のすさまじさを見せ付けられた。
実際何本も元の木の途中からフィックスがとりついて、こぶのようになり、2重に木が重なり、しかも木に沿って根っこが何重にも巻きついている木を見た。
その様は、みるだに無気味である。
ふんが正調に、垂直に地面に着地し、そこから発芽したフィックスは、みじめである。
うす暗いジャングルの中でひたすら太陽の光がさすのを待つ。10年以上 たってもほんの数メートルしか育たない。
トレイル
もうひとつ 別名 『サクリファイスの木』
日本語で言うなら 『自己犠牲の木』 とでもいうのだろうか。
その名の大木が倒れていた。
この大木は、40年から50年たって1回だけ花を咲かせ、実をつける。
それからすこしづつ枯れていき約20年程で枯れ果て死んでしまう。
ドサッと倒れたあとにぽっかりと空間が広がり、辺りに太陽がさす。
廻りのちび木たちは待ってましたとばかりに存分に光を浴び、今までの忍耐をはねとばすかのようにぐんぐん成長する。
自分が死ぬことによってまわりを助ける、という意味ですばらしく美しい人類愛ではなく木類愛に目覚めた木である。
ほとんどは、太陽の光を求めておのれが生きることに忙しい。
つたは他人依存(他木依存)の典型である。
太いつたは、樹齢30年はする。
ともすれば絡まっている本体より重くなり支えきれず共倒れということもある。
つたはさまざまな形をしている。
大きな蛇のように木から木へ横たわっていて、背の部分に蛇の模様のように斑点があったりすると、夜、研究員がこの道を懐中電灯でとおると必ずギョッとさせられるそうである。
そんな説明を聞きながら、ツアーの終点地にある巨大セイバの木についた。
この木はハーピーイーグル(おうぎわし)が巣を作る木として有名。
地面から出ている根っこの部分だけでも高さ3メートル以上はある。だから木の高さは計り知れない。直径は2、30メートルはあろうか。
このような巨木が伐採されずにある森林が原生林という。
ダリエン国立公園がそれである。
人の手によって伐採され、再び植林された森林は2次林といって元に戻るには、3百年以上必要であるという。
巨大セイバの木
トレイルでは、さまざまな動物にも出くわした。
一番驚いたのが体長40センチぐらいのアリクイ。
すぐそばまで来ても人に気がつかず餌を探してかぎまわっていた。
ベンチで休憩していたら、真上にいたホーラーモンキーにおしっこをかけられてた。
ニェケ(てんじゅくねずみ)、ティナモ(ウズラの1種)といった小動物。
唯一中米に生息するケッサールと同一種、トロゴンという鳥はきれいな黄色と、赤色をした2羽を違う場所で見た。
同じくこれもまた中米にしかいない鳥、くちばしが体よりも大きい不安定な形をした鳥、目も鮮やかな薄緑、黄色、赤の三色のくちばしを持つ鳥 トゥカン、緑のオウムなどはトロピカルのジャングルにはかかせない鳥たちである。
夕方帰るときには、
『たかが森、されど森。』
森の神秘を垣間見た気分で、オゾンとアルファルファの影響か、すっきりと何かとても頭がよくなったような気持ちがした。
「カノピータワー ロッジ」
『サミット ボタニック ガーデン & ズー』 から、ほんの5分もドライブすると、バーダー専用のロッジの小さな看板が見える。
門をくぐり、木々が生い茂る中を、緩やかな勾配で上る。
いくつかのカーブを過ぎると、海抜300メートルの頂上につく。
円柱形のトタンで出来た建物がある。
屋上に、丸いドームが乗っかっている。
トタン張りの表面を水色のペンキを塗っただけの、格別これといって素敵な建物とは決していえない。
まさしく、
「なにこれ。 なに、この建物。」
運河返還前はアメリカ軍の所有地で、レーダー基地だったとかで、納得。
1999年の暮れパナマ政府に返還され、そこをここの経営者、ラウル アリアス氏が、買い取ったとか。
一階は、この辺で見られる鳥の写真などを展示してある。
らせん状の階段を登って2、3、4階が客室、5階が、ラウンジ、食堂、となっている。
さらに、屋上に上ると、目線の下にソベラニアの森が広がっている。
円柱形なので、大きな窓から、360度のパノラマが広がる。
ラウンジには、備え付けの望遠鏡、ハンモッグ、高椅子が用意されていて、鳥がきたらすぐさま、どの角度からでも観察できる体制となっている。
ソベラニア国立公園内にあるカノピータワーロッジ
実際、森の中のバードウオッチングというのは、木の間に隠れて、なかなか鳥を見極めにくい。声はすれども、姿は見えず、ということが何度かある。
そのうえ、上ばかり見上げているのでいいかげん首が疲れてくる。
このロッジが、バーダーにとってうれしいのは、鳥と同じ目線で見ることが出来るということだ。しかも、森の中を歩き回らなくても、ハンモックに揺られながら、鳥を待てばいい。
屋上に望遠カメラをセットして、ベンチでコーヒーでも飲みながら待てば、シャッターチャンスを逃すことがない。
バーダーのためのユニークなロッジとして、世界的に紹介されている。
それだけにお値段は結構する。
部屋は2人でシェアが原則。1人で独占したいときは2倍のお金を払わないといけない。
しかし、それもシーズン オフに限る。
しかし、3食つき、午前一回、午後一回の、英語の堪能なガイドつき、トレッキングをしながらの、バードウオッチングがついているので考えようによっては手間がない分お得かもしれない。
なぜか全館エアコンがない。
これはつらい。
海抜300メートルの高さではあるが、それでも蒸し暑さは避けられないのである。
ホットシャワーであるが、節水を呼びかけている。
高いお金を出してとまりにきているお客様に、節水はないんじゃないか、と思いつつも、
『5分でシャワーを済ませる方法』
『水を大切に! シャワーはこの方法で!』
という張り紙に目がいく。
まず、お湯で最初頭から体全身をサーっとぬらす。
蛇口を硬く閉め、頭にまずシャンプーをつけ、つぎにそのまま石鹸で体を洗い、目に入ってくるシャンプーをかわしながら足のつま先まで石鹸を塗りたくる。
蛇口を再び回し、頭のてっぺんから一機にお湯で洗い流すという、ご丁寧な図式どおりに、きぜわしくせっせとすませつつ、やはりそれでもふと我に返って、
「やってらんないよー。」
と思ったりしないでもない。
しかし、総合的には、バーダーにとってはうれしいロッジだろう。
屋上からのバードウオッチング
私が行った時は、シーズン オフで、私達のほかには、サンフランシスコからきた、という夫婦連れだけだった。
この人たちは、バーダーでもなんでもない。
高校の先生をしているとかで、夏休みの休暇をパナマを隅から隅まで旅行しているとのことだった。
朝、ラウンジで朝食を取っていると、すぐ目の前の木に、『ナマケモノ』 が、3匹ぶら下がっていた。
一緒にテーブルを囲んでいた、私達夫婦と、サンフランシスコの夫婦は、
”なまけもの” が、いかにもおっくうそうに動くありさまを飽きもせず長い時間楽しんだ。
あせらず、ゆっくり、時間に身をゆだねる。
それができるぜいたく。
たくさんの種類の鳥たちが見えるが、ここのお気に入り、お勧めは、濃い青色をした
『ブルーコティンガ (ルリカザリドリ)』 だそうである。
確かに濃い青色は、緑の森にひときわ映える、美しい鳥である。